こんにちは、院長です。
私は、あるIT企業の産業医をしていますが、コロナのせいで、リモートワーク(在宅勤務、遠隔勤務、テレワーク…)になってから、様々な問題点が出てきました。問題点を整理しどういう対策ができるか、私なりに、WHOやCDCなどの資料をもとに調べてまとめてみました。まだ日本の精神医学では、リモートワークによるメンタルヘルスリスクについて、あまり聞いたことがありません。新しい分野で、大変勉強になります。
メンタルヘルスリスク
リモートワークによって、心身のバランスが崩れて、結果として、不安、ストレス、身体症状(肩こり、頭痛、倦怠感など)といった自律神経の乱れ、さらには抑うつになる可能性も指摘されています。
1. 孤独感や孤立感
新型コロナウイルスによって、フルタイムのリモートワークが急に始まり、オフィスで同僚らと仕事をすることができなくなりました。いつもの日常生活は乱れ、それによって不安やストレスが増すのは当たり前のことです。新型コロナウイルスに感染しないよう気をつけることも当然ですが、社会的距離(ソーシャルディスタンシング)に気をつけることは、社会的孤立を勧めているわけではないことを理解する必要があります。今だからこそ、メンタルヘルスケアに気を使わなければなれないのです。
- 通勤・出勤しなくて済むので、社会的接触がなくなります。在宅による緊張感の低下、モチベーションの低下につながります。
- 在宅では孤立感が増し、幸福感が低下します。個々の帰属意識が薄らぎ、全体の企業文化が弱まります。
- 会話の機会が減ります。人にとって大切なノンバーバルコミュニケーションもなくなります。モチベーションの低下、自信の低下、評価されていないと感じることが多くなるでしょう。
2. 燃え尽き(バーンアウト)
新型コロナウイルスが流行する前年の2019年に米国で行われたある調査では、リモートワークによって、82%が仕事のし過ぎで疲れを感じ、52%が長時間労働し、40%はもっと働いたほうがいいと思った、とのことです。リモートワークで、人は仕事をしすぎる傾向があることがわかっています。
- 私生活と仕事の境界線があいまいになります。ついつい仕事をしすぎてしまい、いつもより疲労を感じます。
- 家庭環境で仕事をするので注意力が散漫になります。仕事の効率が低下します。
- 同僚の仕事ぶり、部署の雰囲気を感じにくいため、自分の仕事が達成していないと思い不安になります。いつもより仕事のプレッシャーを感じるようになります。
3. 個別の対応の必要性
メンタルヘルスリスクは、すべての人にあてはまるわけではありません。リモートワークの方が性に合っている人、能力を発揮できる人もいます。
- 多くの人は、始まったばかりのリモートワークでメンタルヘルスリスクは悪化します。しかし、人は順応できるので、環境に慣れていけば、ストレスや不安と上手に付き合っていけるようになります。順応のスピードは、人それぞれです。今後、働き方のひとつとして定着することは間違いありません。
- 一方で発達障害などの精神疾患のある人には、リモートワークの方が合っている可能性があります。オフィス内の人の声、雑音を気にしなくていいため、仕事に集中できるようになります。多人数でのコミュニケーションが苦手な人には、リモート会議システムは朗報です。一対一の音声通話によって、自分の話す順番が予想できるため、意見を伝えやすくなります。オフィスでのコミュニケーションより、伝えたいことのみを伝えるような明確なコミュニケーションになるため、言外の意味を推測する必要がなくなることもメリットの一つです。総じて、集中力が増して業務効率が上がる可能性があります。
メンタルヘルスリスクを低減させるための対策
1. スケジュールを意識しましょう
- いつもやることや一日の計画を明確にしましょう。オフィスと比べて、時間管理、作業管理などを自分でする必要があります。あらかじめスケジューリングしておくことが大切です。
- 自分や家族のことも考えて、仕事をするスペースや環境を整えましょう。
- 息抜きの計画も立てましょう!ネットサーフィンやメールなどのデジタルブレーク(デジタルな休息)はよくありません。遠くを眺めたり運動したりできるようなアナログブレークを必ず組み込みましょう。
- 会社として、休息時間を促進するため、雑談をするためのチャットルームや仮想コーヒーブレークの仕組みを整えるべきです。
- 勤務時間外は、電子メール通知をオフにするなど、完全に仕事のことを忘れてください。
2. 立ち上がりましょう
- ずっと座っていると、仕事に集中しすぎたり、逆に仕事の能率が下がったりします。
- 座ってばかりいないで、定期的に立ち上がり、部屋の中を歩きましょう。
- 1日30分程度の運動は、不安レベルを大幅に下げる可能性があります。
- 歩行(室内、人のいない屋外)、縄跳び、踏み台昇降運動、トランポリンがおすすめです。
3. 換気しましょう
- 部屋の換気をしましょう。閉め切った室内の二酸化炭素濃度の上昇は、注意力を低下させます。
- 人のいないところなら、外を散歩して深呼吸しましょう。
4. コミュニケーションをとるようにしましょう
- 人とつながりましょう。
- 信頼のできる人に、困っていること、楽しいことなどを話しましょう。
- たぶんみんな同じように考えているはずです。
- リモートワークのコツや、どんな息抜きをしているのか共有したり、励まし合うことが大切です。
5. 新型コロナウイルスにかんする情報を制限しましょう
- ネット、テレビ、SNSなどで絶えず新型コロナウイルスにかんするニュースに触れていると、不安や恐怖があおられます。不安や緊張が高まると、呼吸が乱れたり、喉が詰まったり、寝られなくなったりします。
- メディアからの情報は制限し、決めた時間帯、決めた情報源からのみ、入手するようにしましょう。
- せっかくのリラクゼーションが水の泡になり、仕事の能率が低下します。
6. 気晴らしをしましょう
- 気晴らしで幸福感が増します。遠くの雲を眺めること、落ち着く音楽を聞くこと、呼吸を整えること、本を読むこと、料理をすること、絵を描くこと、瞑想やヨガ、軽いストレッチ。
7. 自分に「いいえ」と言いましょう
- 燃え尽きないために、スケジュールを超えて仕事をしないことです。
- 追加の仕事には「いいえ」と自分自身に言う勇気を持ちましょう。